dr100の一の宮・百寺巡礼・続百名城旅日記

百名城、百名橋、百名建築、百名公園、桜の名所百選、東京23区内一丁目一番地などを訪問しました。一の宮、百寺巡礼、続百名城も完訪。発祥の地、見学施設(博物館、記念館など)、寺社仏閣の御朱印もやっています。皆様のコメントが励みになりますので、よろしくお願いいたします。

行き止まりの階段

今年もそろそろ暑くなってきたので、少し涼しくなる話をします。
平成●●年に●●に整形外科医院を開業してから早くも●●年が経ちました。いまでも年に数回、同じ夢を見ます。夢の状況設定は開業直前まで勤務医として勤めていた病院。そして、最後の勤務日の夕方、医局の机の整理や各所への挨拶を終え、家路に向かうために医局から病院の玄関に向かうところから始まります。
ここで最初にお断りしておきたいのは、その病院は現実に私が最後に勤務医として働いていた病院とは構造上も構成メンバーも全く異なり、私の夢の中にだけ定期的に現れる架空の病院、架空の登場人物です。

「もう勤務医生活も今日で終わりか」と感慨にふけりながら医局(夢の中では上層階にあるが、何階なのかさだかではない)を出て廊下を歩き、病院の一階にある玄関に通じる階段を下に向かって降ります。ところが階段の様子が少し変です。階をひとつ分、降りたところで階段の続きがないのです。「はて、そうだったっけ」と訝しく思いながらもう一度上に上り返すのも億劫なのでたどり着いた階の廊下を歩いてみます。そこは整形外科の病棟で、ついさっきまで白衣を着て指示を書いていたのが不思議なほど、気分は「お客さん」になっています。さきほど暇(いとま)のあいさつをした婦長さんや看護師さんたちがナースステーションから「何か忘れ物でもしたのかしら」と言いたげに私服に着替えた私を見ています。ただ、その目つきが、いつも見慣れた目つきと微妙に違っているのを感じます。口元も多少ひきつってかすかな笑いを浮かべています。バツが悪いのでそのまま廊下を進むと、今度は階下へ向かう階段を見つけます。やれやれ、やっと外に出られそうです。階段の踊り場にある窓の向こうには夕暮れの街並みの日常がみえます。踊り場を過ぎると、妙なことに気がつきました。踊り場から下の階まではせいぜい十数段のはずなのですが、何重段も続いているのです。一番先は暗くて見えないほどです。しかも、階段は下に続いているのですが、それ以上に急な角度で階段の天井が先へ行くほど下がっているのです。やがて階段と天井は三角定規の端のように線と線が交わって盲端に終わり、それ以上進めなくなりました。
気を取り直して先ほどの階に戻ると、ついさっきまで病棟があったのに、そのフロアはリネン室になっていました。病院で出た洗い物を一心不乱に洗濯しているおばさんたちが、ちらりと私の顔を見たあと、すぐに目の前の洗濯物に目を落とします。よく見ると、全員同じ顔をしています。とても出口を聞ける雰囲気ではありません。しかたがないのでそのフロアでなんとかエレヴェータを見つけました。それなら途中で行き止まりということはなく、出口のある一階まで私を降ろしてくれるはずです。やがてやってきたエレヴェータあいにく満員。知った顔も何人か載っています。わたしが乗るとブザーが鳴ってしまいます。相当心理的に追い詰められた私は、「誰か私の代わりにここで降りてください!私をこのエレヴェータに乗せてください。たすけてください!」と、喉元までで掛かりましたが無常にも扉が閉まり一階に降りてもう一度私のいるフロアに上ってきたときは、今度は無人でした。
エレヴェータの扉が閉まり、「これでようやく出口のある一階に行ける」と行き先ボタンの表示を見ると・・・、ない!ならんでいるのは数字ではなく、見たこともない不思議な文字の羅列。とにかく違う階に行かなければこの病院から出られないと思い、一番下のボタンを押します。異常に長い時間が経過したあと扉が開くと、そこには掃除のおばさんがモップを持って立っていました。
もう、焦りを通り越して恐怖心に打ち震える私は、すがるような思いで掃除のおばさんに「すいません、出口へ行きたいのですけれどなかなか見つからないのです。教えていただけませんか?」と訪ねました。すると顎を右にある扉の方向に突き出し、「この扉の奥に手術室がある。さっき交通事故の多発外傷が入ったから整形外科の先生たちが4番オペ室で緊急オペをしておる。その手術室の手前のドアから入って、オペ台の横を通って向こう側のドアから出ない限り、あんたはこの病院から出られないぞ。」と・・・。
まともに冷やした頭で考えればオペ室に私服で入れるわけがないし、入口と出口がオペ台をはさんで別々にあるオペ室なんて、まずありえません。でも夢の中なので、とにかく4番オペ室の前にゆき、足先の操作で自動ドアを開けます。同僚が一斉に私を睨み、一瞬の後にはまたいっせいに術野に目線が戻ります。その一連の動作が、「もう、お前には関係ないのだからな。とっとと立ち去れ!」と無言で言っているようで、足がすくみます。

特にオチのない話で申し訳なかったのですが、いつもここで汗びっしょりになって目が覚めます。もしかして、また今夜、「行き止まりの階段」が私を夢の底で待ち受けているのかもしれません。