dr100の一の宮・百寺巡礼・続百名城旅日記

百名城、百名橋、百名建築、百名公園、桜の名所百選、東京23区内一丁目一番地などを訪問しました。一の宮、百寺巡礼、続百名城も完訪。発祥の地、見学施設(博物館、記念館など)、寺社仏閣の御朱印もやっています。皆様のコメントが励みになりますので、よろしくお願いいたします。

番外エッセー その5

今月は調子に乗って写真をどんどんアップしてしまったので「はてなブログ」の容量がいっぱいになって、これ以上写真がアップできなくなってしまいました。文章ならアップできるので、いつもの旅行記ではなく、地元の医師会雑誌に掲載していただいている「Dr100の旅のあれこれ」というエッセーの転載を月末までの数日間続けますのでよろしくお願い致します。
Dr100の旅のあれこれ Vol.5                <夜行バス>
 飛行機の話ばかりで先に進みませんので、次の話題に行きます。
国内の夜間長距離移動のメインは以前は夜行列車でしたが、合理化でどんどん廃止され、現在定期的に運行されているのは首都圏〜北海道を結ぶ「カシオペア」と「北斗星」、首都圏〜青森(羽越線経由)の「あけぼの」、首都圏〜山陰・四国を結ぶ「サンライズ出雲・瀬戸」、関西〜北海道を結ぶ「トワイライトエクスプレス(曜日限定)」だけになってしまいました。昭和の時代は日本全国に「網の目」のように張り巡らされていた夜行列車網が現在これだけになってしまったのはさびしい限りです。
夜行列車の廃止とともに台頭してきたのが夜行バスです。日本の夜行バスは東名自動車道の全通と時を同じくして昭和44年、東京と大阪を結ぶドリーム号(国鉄が経営)の路線開設を嚆矢とします。その後、夜行バスは、企画ツアーのスキーバスと、お盆、年末の時期に臨時運行される帰省バスがあるぐらいで推移してゆきますが、夜行列車の衰退と、高速道路網が全国に張り巡らされた時期が重なり、東京、名古屋、大阪を中心に地方都市への高速道路による夜行高速路線バスの都市間輸送が次第に充実してきます。1986年には阪急バスが大阪〜福岡間に、それまでの「バスの座席は4列、2時間おきにトイレ休憩」という常識を打ち破る「トイレ付3列座席のバス」を登場させ、以後3列バスが夜行バスの主流になっていきます。
新幹線や飛行機などより安く、夜の時間を利用して無駄なく移動できる定期夜行バスはその後わが世の春を謳歌する時代もありましたが、募集型企画旅行形式の格安バスが登場し、利用者との蜜月期間は長くは続きませんでした。募集型企画旅行形式とは何かというと、東京からのスキーバスツアー(スキー場へのバス往復、宿、リフト券がパックになった商品)から、宿、リフト券を省いて、バスは片道、行き先はスキー場ではなく都市になった企画と思っていただければよいと思います。定期路線バスと違って乗り場を設ける必要もありませんし、必ず毎日運行する必要もありませんし、路線バスの免許を申請する必要もありませんし、その免許に規定されている運転手の人数にも縛られることもありません。そんなこんなで浮いた経費を運賃を安くすることに反映させて、今までの路線高速バスの乗客を取り込んでゆきました。
でもよいことばかりではなく、車両面においては昼間は観光バスとして運行されるバスを転用しているので座席は4列、トイレはなく、労務管理面においては運転手の過労による事故などがときどき発生するのは御存知の通りです。乗り場も専用の場所はなく、多少の慣れは必要です。しかし格安バスは驚くほど安く、競争の激しい東阪(東京〜大阪)間の価格は、3000円も出せば(4列バスでもよいのなら)いくらでも選べます。
アーバスの価格攻勢に路線バスも手をこまねいてはいません。4列バスに回帰して青春ドリーム号など、低価格路線の商品を打ち出すと同時に、プレミアムシートという高級路線にも進出して差別化を図ります。プレミアムシートはなんと2列で、席はほぼフラットに倒れ、寝返りが打てる幅があります。充電、前の背もたれには飛行機にある様な小型テレビが備え付けられ、座席だけでいえば国際線旅客機のビジネスクラスは凌駕しており、ファーストクラスに迫っています。食事は出てきませんが・・・。ツアーバスも高級化路線に手をこまねいているわけではなく、路線バスにならって豪華シートの夜行バスを繰り出してきます。先日、現時点では日本一豪華な夜行バスだろうといわれているツアーバス「マイフローラ号」(東京〜徳島)に乗車しました。4列の観光バスは49人乗り、3列の夜行バスは29人乗りが標準なのですが、このバスはなんと12人乗りです。つまり、2列で縦に6シートしか並んでいないのです。ここまで来ると、ほとんど個室感覚です(写真1)。トイレ(写真2)も、ここがバスの中だとはとても思えないゴージャスさです。シートもフルフラットで、いくら足を伸ばしても足先が前に届きません。だからよく眠れるでしょうといわれるかもしれませんが、ここまで豪華だと、夜行バス愛好者としてはその豪華さに興奮してなかなか眠れないものです。
夜行バスで眠れないときは、とにかく目をつぶって「明朝が来たるのが早かれ」と時間の経過を待つしかないのですが、「逆・浦島現象」という、特有の現象が起こります。浦島太郎が3日だと思ったのが30年だったという、<自分が感じたより実際の時間の経過が早い>=「浦島現象」とは逆に、夜行バスで寝付かれないときに暗闇の中で腕時計を見てからじっと目をつぶって「もう、1時間ぐらい経っただろう」と思って再び腕時計をみると、まだ先程から15分しか経過していない<自分が感じたより実際の時間の経過が遅い>現象をいいます。これが始まると、つらい夜になります。
夜行バスの楽しみとして、夜間の休憩があります。高速道路のサービスエリアで15分〜20分ほど休憩するのですが、そこのお土産売り場がどんな観光地のお土産屋さんよりも実は品揃えが一番充実していることに気が付きます。普段はめったに食べないケチャップとカラシをたっぷりつけたアメリカンドッグも、夜中のサービスエリアでは何故か美味しく感じます。そんなこんなで夜が明けて目的地に到着して運転手さんに「ありがとうございました」と、お礼の挨拶(これって、他の乗り物にはない習慣だと思います)をして、旅先のバス停に下車すると、何故か眠気は吹き飛びます。早朝からフルに使える新しい旅先の一日のはじまりです。夜行バスは、数千円の投資で、数百キロの移動と一晩の宿をまかなえる魔法の乗り物だと感じるひとときです。
でも、そんな夜行バスにもここ数年L.C.C.(ローコストキャリア=格安航空)という強敵が出現しました。500キロ程度なら夜行バスに利がありますが、1000キロを超える東京〜福岡を夜行バスなら14時間30分で13000円のところ、1時間40分、7000円で空を飛ばれたら勝負になりません。これからもライバルの熾烈な争いは続いてゆくでしょう。
「旅のあれこれ」といいながら、乗り物の話ばかりで、なかなか前へ進まず申し訳ありませんが、とりあえず「Dr100の旅のあれこれ Vol.5」の筆じまいとさせていただきます。

追記 2012年4月の関越自動車道の事故をきっかけに法律が改正され、2013年8月から、いわゆる「格安バス」はなくなりました。